Databricks は 2026 年 10 月 20 日、エージェント向け記憶アーキテクチャ MemCurrent を公開し、Agent Bricks プラットフォームで Agent Memory のベータ提供を始めた。企業エージェントは会話のたびにゼロから始めるのではなく、事実や好み、仕事の進め方をセッションをまたいで保持できるようになる。実際の業務会話から構築した社内ベンチマークでは、この記憶を付けた 114 件の企業タスクの達成率が、記憶なしの 22.3% から 68.4% に上がり、トークン使用量は 31% 減、所要時間は 26% 短縮した。モデルは一切変えていない。差はすべて、記憶の保存と整理の仕方から生まれている。
決め手は量ではなく、二層に分けること
MemCurrent は記憶を二種類に分ける。エピソード記憶は会話や操作の生の記録、いわば台帳だ。派生記憶はそこから好み、定義、ワークフローを抽出したもので、整理済みのノートに近い。分けて測った結果が示唆に富む。エピソード記憶だけでは達成率 35.8%、派生記憶だけでは 66.1%、両方で 68.4% だった。履歴を丸ごと詰め込むより、先に抽出してから渡す方がはるかに効くということだ。公開ベンチマーク 3 件では、全履歴を渡した場合と同等の性能を 12 分の 1 のトークンで達成し、Mem0、PropMem、OpenClaw memory の 3 つのオープンソース記憶システムを上回った。いずれも Databricks の自社測定で、第三者の再現はまだない点には留保がいる。
オフラインの「夢」:記憶は仕事中ではなく、後で整理する
最も特徴的な設計は、Databricks が夢になぞらえるオフライン整理だ。エージェントは作業中、起きたことを書き留めるだけにとどめ、その後、専用パイプラインが記憶の統合、重複排除、矛盾の解消を行う。新しい定義が古い定義を上書きし、重複した事実は一つだけ残る。製品側の Agent Memory は Lakebase データベース上に構築され、エージェントは起動時に「自分がすでに知っていること」の索引を読み込み、詳細は必要に応じて検索する。Agent Bricks の CLI なら数分で記憶付きエージェントをデプロイできるという。このアーキテクチャはすでに Agent Bricks Memory と同社のデータ質問製品 Genie を駆動している。
消費者向けの「覚えておいて」とは別物
消費者向け製品も記憶を競っている。たとえば新登場の ChatGPT のロック付きチャット は、機微な会話を専用領域と専用記憶で分けるが、あれは個人のプライバシーの境界の話だ。MemCurrent が狙うのは組織の記憶である。サポート担当エージェントがチーム全体のチケット履歴から回答の型を蓄積し、次の担当者のエージェントがそれを引き継ぐ。だからこそガバナンスが問題になる。誤って抽出された記憶は「経験」の名のもとに繰り返し使われるため、企業が保持すべきは達成率だけでなく、記憶の出所の連鎖と訂正の入口だ。自前でエージェントを作るチームへの実務的な結論は具体的である。生の記録と抽出結果を分けて保存し、抽出にはオフラインの整理時間を確保し、それから初めて大きなモデルの話をすることだ。