Muse Wonder は、Meta が2026年10月12日に発表した初のフロンティアモデルシリーズである。Meta は公式発表で Muse Wonder と Muse Wonder Full の2モデルを同時に投入し、同社史上最も高性能で、個人向け・業務向けのエージェントタスクで業界最高水準の性能を持つと位置づけた。Meta が AI 事業を全面再編してから十四か月、スーパーインテリジェンス部門が OpenAI や Anthropic と正面から競うフロンティアモデルを出すのは初めてで、Muse Spark のような軽量モデルとは狙いが異なる。
2モデルの役割分担は価格と提供経路で決まる
入手方法は2モデルで異なる。Muse Wonder は同日から Meta Model API と Muse Code で提供され、TechCrunch の同日報道によれば API 価格は入力100万トークン当たり4ドル、出力100万トークン当たり20ドルで、GPT-6 Sol や Claude Opus 5.5 とほぼ同水準だ。一方、Muse Wonder Full は Muse Code のサブスクリプション利用者限定で、API では提供されない。両モデルは今後 Meta のエージェント製品 Muse にも搭載され、まず契約者へ展開される。第三者評価機関 Artificial Analysis が同日に公表した知能指数では Wonder が52、Wonder Full が56だった。Meta 自身の測定では Fable 5.1 や GPT-6 Astra と同等のベンチマーク性能だという。ただし自社測定も第三者指数もまだ独立した再現はなく、実際の差は開発者が自分のタスクで試して初めて分かる。
能動的記憶と能動的集中、長いタスクの二つの弱点への回答
Meta は今回、コーディングより先に記憶を売りにした。Active Memory(能動的記憶)は、ユーザーにとって重要な情報を会話をまたいで保持し、新しいタスクで関連する詳細を自ら呼び戻す能力である。継続学習と記憶構築を測る MemoryBench では、Meta によれば Wonder が Fable、Opus、Astra を上回った。もう一つの Active Focus(能動的集中)は実行面を担う。タスクが難しくなっても目標へ進み続け、別の方法を試し、エラーから回復し、重要な操作の前だけユーザーに確認する。公式が挙げる用途は保険請求、賃貸契約の理解、個人財務の整理といった資料が多く日数もかかる専門業務で、法律、金融、健康などの専門領域とコーディングが続く。この設計が認めているのは、エージェント実用化のボトルネックは単発の回答品質だけでなく、文脈を覚えていられるか、長い仕事を最後までやり切れるかだという点である。
訓練拠点と安全方針、そして未公表の部分
公式発表によれば、このモデル群は今年稼働したオハイオ州中部の Prometheus データセンターで訓練された。安全面では、許可なく個人情報を共有しないこと、実際に有害な行為への協力を断ること、同社のスーパーインテリジェンス拡張フレームワークの基準で評価することを掲げ、完全な安全評価レポートは後日公開としている。一方で、コンテキストウィンドウ、パラメータ規模、知識の締切日といった主要仕様は公表されていない。Wonder Full が API で使えない以上、企業ユーザーが最強版を自社システムから呼べる日もまだ先だ。このモデルの実力が定まるのは、Muse の契約者が長いタスクで使った結果と、記憶系ベンチマークの独立検証が出そろってからである。それまでは、世代交代の確定判定というより、Meta がフロンティアのテーブルに戻ってきたという宣言として読むのが妥当だろう。