OpenAIは2026年10月26日に公開した発表で、3件の成果を一度に示した。数学における波の局所平滑化予想、計算機科学における指数時間仮説の反証、物理学における量子色力学と標準模型の完備化の存在証明である。いずれも内部モデルの出力に由来し、形式化による検証や外部専門家による整理を経ているが、公開の度合いは異なり、学界に受け入れられるまでの距離もそれぞれ違う。
3件の成果はそれぞれ何を主張しているのか
数学では、1991年にSoggeが提唱した局所平滑化予想が対象である。波が集束するとき、最も極端な集束は短時間しか続かず、ランダムに選んだ典型的な時刻では、集束は最悪の場合よりはるかに弱い。この予想は非常に基礎的で、掛谷予想とスタインの制限予想を導く。2019年にはGuth、Wang、Zhangが2次元の場合を証明し、2025年にはWangとZahlが3次元の掛谷予想を証明した。OpenAIによれば、モデルは新しい補助偏微分方程式を用いて、すべての次元での証明を与えた。AIの出力は10月18日に得られ、翌日にLeanで形式化され、モデルの原稿とLeanによる証明はすでに公開されている。
計算機科学では、指数時間仮説(ETH)が誤りだとする主張である。この仮説はブール式の充足可能性にどれだけ時間がかかるかを扱い、長く広く信じられてきた。数百本の論文がこれを前提に、グラフ理論、計算生物学、データベース、計算幾何学などで条件付きの困難性結果を導いてきた。OpenAIによれば、システムは10月16日に自然言語による反証を与え、翌日にLeanで形式化した。ただしこれは、より速いアルゴリズムが理論上存在しうるという意味であって、実用的な高速化が明日手に入るわけではない。
物理学では、4次元の相互作用する量子場の理論について、量子色力学や、標準模型のゲージ場とフェルミオンを含む最も単純な大統一的完備化を含む、厳密な存在証明が与えられた。手法はBalabanの構成的場の量子論に基づく。純粋なヤン=ミルズ理論の存在は、そのうちの一つの部分問題にすぎず、ミレニアム問題全体の完全な解決ではない。質量ギャップの部分は今回の主張に含まれていない。モデルは9月9日にヤン=ミルズ存在の証明を、9月18日に量子色力学の証明を与え、ヤン=ミルズのLean形式化は10月16日に完了した。
意図的に分けられた3通りの公開方法
OpenAIは3件の成果を意図的に異なる方法で公開した。数学の成果はAIの出力をそのまま公開し、研究者が自由に解釈できるようにした。計算機科学の成果は外部グループに託すと同時に、自然言語の証明とLean形式化を直ちに公開した。物理学の成果は、外部グループがまず自ら書き上げることとし、AIの原資料は当面公開しない。計算機科学のグループは、カリフォルニア大学サンディエゴ校のRussell ImpagliazzoとRamamohan Paturi、マサチューセッツ工科大学のRyan Williamsが率いる。ImpagliazzoとPaturiはETHの当初の提唱者である。物理学のグループは、ノーベル物理学賞受賞者のDavid Grossが率い、Michael Douglas、Arthur Jaffe、Igor Klebanov、Nikita Nekrasovが参加する。OpenAIはこの協力に4つの原則を定めた。秘密保持契約なしの透明性、OpenAI自身は学術的な名誉を求めないこと、整理にあたったグループの貢献を認めること、自発的・無報酬で結論は独立であることである。さらに、ETHの結果の影響を議論する会議への資金提供を約束し、関連するワークショップや特別プログラムのためにSimons Foundationへ500万ドルを提供した。
なぜ今は結論を出せないのか
Leanによる形式化が通ったことは、証明が形式体系の内部で整合していることを示すだけで、学界が結論を受け入れたことを意味しない。ETHのグループ自身も、整理への参加は主張への支持ではないと強調し、これほど重大な結果には公開された独立の検証が必要だとしている。物理学については、外部の研究者はAIの原資料すらまだ見ておらず、グループの原稿を待つしかない。3件がすべて成り立つとしても、その影響はまず理論研究とアルゴリズム探索の出発点に現れ、明日使える製品になるわけではない。むしろ注目すべきは、この新しい成果の生み出し方そのものかもしれない。モデルが候補となる証明を出し、形式化ツールが検算し、外部の専門家が解釈と批判を担う。結論が成り立つかどうかは、依然として学界の検証が決めるのである。