9月21日、The VergeとGeekWireは、AmazonがMetaの個人AIエージェント「Muse」によるAmazonサイトでの代理購入を遮断したと報じた。現地時間の日曜夜以降、MuseにAmazonでの注文を頼もうとすると「未承認のAIエージェントによる継続的なアクセスはAmazonの利用規約に違反します」という警告が表示される。
Amazonが動いた理由
Amazonの主張は3点に集約される。MetaはMuseが同社のECサイトにアクセスすることを事前に知らせなかった、Museはブラウジング中にエージェントであることを名乗らない、Museはユーザーのアカウント認証情報を収集・保存しているように見え、プライバシーとセキュリティ上の懸念がある、というものだ。Amazonの広報担当者は「他社の店舗で消費者に代わって買い物をするサードパーティアプリは、透明に運営し、サービス提供者が参加するかどうかを決める権利を尊重すべきだ」と述べた。
Amazonは以前Metaに対し、Museの利用可能サービスから自社サイトを自主的に除外するよう求めていたが、協議が不調に終わり、直接遮断に踏み切った。両社は現在直接協議中だが、Amazonは法的措置の可能性についてコメントを拒否した。
Metaの反論:認証情報は見えない
Metaの回答はこうだ。Museはユーザーのパスワードや決済情報を閲覧できない、認証情報は安全な保管庫に入り、エージェントは利用はできるが中身を見ることはできない、決済はStripeのチェックアウトサービス「Link」を経由し、単一加盟店・単一金額専用のワンタイムカード番号が発行される、Museは隔離された安全な仮想マシン内で動作し、センシティブな操作の前にユーザーに確認し、「Sentinel」という独立した監視エージェントがすべての外部向けリクエストを監査する、という内容だ。
争点の核心は実はプロダクト設計にある。9月8日にMetaが発表したMuse (/article/1973-meta-released-museai-personal-ai-assistant-integrating-browser-apps-and-backgrou)は、メール、カレンダー、決済、飲食、買い物にまたがる複数ステップのタスクを実行する個人エージェントとして位置づけられている。その設計は、オンラインサービスが公開APIを提供していればユーザー認証情報で連携し、APIがなければエージェントが「人と同じようにブラウザでそのサービスを使う」というものだ。Amazonが遮断したのはまさに後者の経路——身元を明かさないサードパーティがユーザーアカウント内で操作し、取引を処理し、機密データに触れる。それをプラットフォームは知らず、許可もしていない。
背景:Amazonの初動ではない
Museは公開から1週間で米Apple App Storeの無料ランキング首位に立ち、ChatGPTを上回った。一方Amazonはこの1年、外部AIエージェントを締め出し続けてきた。PerplexityのCometブラウザを提訴し、3月に仮差し止めを勝ち取ったが、8月4日に米第9巡回区控訴裁判所が覆した。連邦反ハッキング法の下ではAmazonのシステムにアクセスしているのはユーザー本人だという判断だ。9月10日には再審理請求も却下された。ただ判決はAmazonに一筋の道を残した。契約と利用規約に基づく権利行使だ。今回のポップアップはハッキングを非難せず、利用規約を直接引用している。戦場は「プラットフォームの許諾の有無」へ移った。
両社の関係も皮肉だ。2023年以降、ユーザーはFacebookやInstagram内で直接Amazon商品を購入できるようになった。今年4月にはMetaが数十億ドル規模の契約を結び、自社のエージェント型AIワークロードをAmazonのクラウドで実行している。提携は提携、店先の門は別問題だ。
この出来事が意味すること
エージェントコマースは、製品デモの段階からプラットフォームガバナンスの対立へ移行しつつある。ユーザーがエージェントに代理操作を許可したことと、プラットフォームがそのエージェントにアカウントや決済フローへの進入を許可したことは別だ。これがAmazonが引いた一線である。
商業的な利害も大きい。Amazonの2025年の広告収入は680億ドルを超え、ユーザーが自発的にページを閲覧し、スポンサー商品を見ることに依存している。エージェントが検索、価格比較、決済を肩代わりすれば、ユーザーはAmazonのページを二度と訪れないかもしれず、広告とレコメンドの基盤が揺らぐ。一方Amazon自身もAlexa for Shoppingの「Buy for Me」を5月に投入している。外部エージェントが優秀になるほど、取引を自社の庭に閉じ込める動機は強まる。
開発者への現実的な教訓はこうだ。買い物エージェントを作る上で重要なのは「購入ボタンを押せるか」だけではない。対象サービスが公式APIを提供しているか、エージェントの自己申告を求めているか、遮断された場合に人間による決済へフォールバックできるかも問われる。業界は分岐している。Googleは汎用コマースプロトコルを推進し、OpenAIとStripeはエージェントコマースプロトコルを構築し、Amazonは先に壁を築くことを選んだ。当面、エージェントによる買い物はプラットフォームの顔色次第になる。